多くの観客の心を惹きつけた「水没した円形建築の中に立つ一本の扉」。あの印象的なシチュエーションは、単一の場所を忠実に模写したものではなく、制作陣による緻密なロケハンとデザインの融合によって誕生した。
コミックス・ウェーブ・フィルムの背景スタッフは、全国各地の廃リゾート施設や旧産業遺産を念入りに取材したとされる。旧豊後森機関庫の円形転車台に溜まった水面、旧鉱山跡の独特な廃墟美、さらにはかつての巨大銭湯や温水プールの意匠などが複雑に組み合わさることで、あのどこか神秘的でノスタルジックな「扉の立つ場所」が生み出された。
新海誠監督はインタビュー等で、人が去っていった場所に残る「静けさ」や「気配」をいかに映像に落とし込むかを重要視したと語っている。朽ちかけた鉄骨に射し込む自然光の揺らぎや、水面に映り込む青空の反射など、実在する廃墟の光彩を極限まで計算し尽くした美術設定が、映画に圧倒的なリアリティをもたらしているのだ。