スポーツニュースのテロップなどで「今季5度目の猛打賞」と華々しく報じられるため、首位打者や本塁打王と同じような連盟公式の記録表彰だと思い込んでいるファンは少なくありません。しかし実態を検証すると、意外な事実が浮かび上がります。
結論から言えば、プロ野球の公認野球規則において「猛打賞」という公式記録や連盟表彰は存在しません。NPBがシーズン終了後に表彰するタイトルは、打率、本塁打、打点、盗塁、最多安打、最高出塁率などに限られており、猛打賞はあくまで「特別賞」または「私設記録(メディア集計による参考記録)」という扱いにとどまっています。
では、なぜこれほどまでに日本プロ野球界に深く根付いているのでしょうか。その歴史は、プロ野球創成期である昭和初期(1930年代後半〜1940年代)にまで遡ります。当時、プロ野球という新しい興行を盛り上げ、過酷な連戦を戦う選手たちのモチベーションを高めるために、読売新聞社や報知新聞社をはじめとするメディアや熱心な後援企業が、「1試合で3本以上打った選手に特別ボーナスを出そう」と独自のインセンティブ制度を設けたのが発祥とされています。
新聞紙面を彩るキャッチーな見出しとして定着した「猛打賞」という言葉は、戦後の復興期を経てラジオ・テレビ中継の普及とともにファンの共通言語となりました。連盟の公式アワードではないにもかかわらず、ファンの記憶と報道の積み重ねによって「一流打者の証明」としての揺るぎないステータスを獲得した、日本スポーツジャーナリズムが生んだ名物文化といえます。