名称が酷似しているため混同されやすいのが口蓋帆挙筋(Levator veli palatini)です。両者は軟口蓋を舞台に協調して動きますが、その走行方向、作用、そして耳管に対する働きには決定的な違いが存在します。
まず運動の向きです。口蓋帆張筋が「軟口蓋を水平に引っ張り緊張させる」のに対し、口蓋帆挙筋は側頭骨錐体下面から斜め前下方に走行し、「軟口蓋を上後方へと持ち上げる」役割を果たします。嚥下時や発声時には、口蓋帆挙筋が軟口蓋を引き上げることで鼻咽腔閉鎖を完成させ、息や食物が鼻へ抜けるのを防ぎます。
さらに重要なのが耳管開閉メカニズムにおける役割分担です。安静時の耳管は周囲の弾性組織や脂肪組織によって閉塞していますが、嚥下やあくびの瞬間に口蓋帆張筋が収縮すると、耳管軟骨の外側壁が外側下方へ牽引され、耳管の内腔が物理的にこじ開けられます。耳管咽頭筋なども補助的に関与するものの、能動的に耳管を開口させる主動筋は口蓋帆張筋です。一方の口蓋帆挙筋は耳管底面を支えるクッションのように作用し、直接耳管を大きく開く作用は持ちません。