ネット上の掲示板やSNSでは長年、「『まずい!もう一杯』は完全なアドリブだったのか、それとも緻密に計算された台本だったのか」という議論が繰り返されてきました。この真相については、八名信夫さん自身が特番インタビューや自著・手記の中で極めて克明に明かしています。
撮影現場で用意されていた当初の構成案では、単に豪快に飲み干すような大まかな流れこそあれど、あの独特なセリフが一言一句指定されていたわけではありませんでした。スタッフから手渡された生のケール青汁を一口含んだ瞬間、八名さんの口元を襲ったのは、想像を絶するエグみと苦味でした。思わず撮影中であることも忘れ、本能的に吹き出しそうになるのをこらえながら絞り出した本音こそが、あの「まずい!」という一喝だったのです。
現場には一瞬、凍りつくような緊張が走りました。本来であれば即座にNGが出てもおかしくない場面です。しかし、八名さんは元プロ野球選手としての負けず嫌いな気骨を発揮しました。「ここで吐き出してたまるか」「男が一度引き受けた仕事だ」という凄まじいプロ根性から、喉元へ流し込んだ直後、カメラを睨みつけるようにして自ら発したのが「もう一杯!」という叫びでした。
このテイクを見た長谷川社長は、「これだ! これこそが本物の声だ」と即断即決。広告代理店側が恐る恐る提案した綺麗なテイクをすべて退け、最も顔が崩れ、最も本音が露わになったワンシーンを本編として採用しました。つまり、「まずい」は予定調和を破壊した八名さんの生理的なリアクションであり、それに続く「もう一杯」は役者としての意地が生んだ、計算では絶対に作れない奇跡のアドリブだったのです。