東京・西新宿のSOMPO美術館に鎮座する『ひまわり』は、日本人がいつでも肉眼で鑑賞できる世界的至宝です。この作品が日本へ渡った経緯には、バブル前夜の日本経済と国際的なドラマがありました。
1987年クリスティーズの衝撃落札
1987年3月30日、ロンドンのクリスティーズで開催されたオークションにおいて、当時の安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)が、当時の絵画史上最高額となる3,990万ドル(当時のレートで約53億円、手数料込みで約58億円)で落札しました。このニュースは世界中のメディアでトップニュースとして報じられ、日本企業の経済力を象徴する出来事として歴史に刻まれました。
突如浮上した「贋作疑惑」とその完全決着
1990年代後半、英米の一部美術研究者から「SOMPO美術館のひまわりは、ゴッホの友人であった画家エミール・シェフネッケルによる贋作ではないか」というセンセーショナルな疑惑が提起されました。筆のタッチの滑らかさや、サイン(Vincent)の欠如が疑念の根拠とされたのです。
この疑惑に対し、SOMPO美術館(当時・安田火災東郷青児美術館)とアムステルダムのゴッホ美術館は、最新の科学機器を用いた徹底的な共同調査を実施しました。その結果、以下の決定的な証拠が確認され、疑惑は完全に払拭されました。
- カンヴァスの繊維一致:使用されていたジュート混紡の粗いカンヴァスが、ゴッホ美術館所蔵の作品と同じ織り目・ロールから切り出されたものであることが判明。
- 下絵と顔料の同一性:X線透視検査および蛍光X線分析により、ゴッホ特有のペンによる下描きの特徴や、当時の彼が好んで使っていたクロムイエローの成分と完全に一致。
- ゴッホ美術館による公式認定:2001年、ゴッホ美術館の主任研究員らにより「正真正銘のファン・ゴッホ真筆である」と正式に結論づけられた。
美術館の現場を訪れる来館者の声を聞くと、「写真で見るよりも黄色のグラデーションが深く、花びらの絵の具の盛り上がりに生々しい息遣いを感じる」「東京の真ん中でこの迫力を間近で体感できるのは贅沢すぎる」といった感銘の声がSNS上でも絶えません。ガラス越しであっても伝わるその物質感とエネルギーは、100年以上の時を経ても色褪せていません。