かつて人種を判別する基準は、骨格の計測や皮膚のメラニン量、体毛の密度の違いなど、見た目の観察に基づく形質人類学が主流だった。しかし、DNAの直接解読を可能にした分子人類学の台頭により、状況は一変した。最新のゲノムデータは、両者の「決定的な違い」が不変の境界線ではなく、環境適応に伴う遺伝子変異の集積に過ぎないことを明らかにしている。
例えば、太古のユーラシア大陸において、東へ向かった集団と西へ向かった集団はそれぞれ異なる気候や病原体、食性に対する選択圧を受けた。毛髪の太さや汗腺の密度に関わるEDAR遺伝子の特定変異は東アジア人に特有のものであり、乳糖分解酵素の活性を維持するLCT遺伝子の変異はヨーロッパ地域で高頻度に見られる。分子人類学が提示した衝撃的な事実は、外観の大きな隔たりがごく一部の適応遺伝子の相違に起因しており、全ゲノムレベルで見れば共通性が圧倒的であるという現実だ。