チェコ出身のミュシャ作品が堺市に集結した背景には、日本のカメラ流通史にその名を刻んだ「カメラのドイ」の創業者、故・土居君雄(どい きみお)氏の並々ならぬ情熱がありました。ビジネスでヨーロッパを頻繁に訪れていた土居氏は、ミュシャの芸術性に強く惹かれ、私財を投じてポスター、油彩、素描、宝飾品、家具、さらには愛用カメラに至るまで膨大な作品群を体系的に収集しました。
土居氏の急逝後、遺志を継いだ妻・満里恵氏によって約500点に及ぶコレクション散逸を防ぐための寄贈先が模索されました。そこで名乗りを上げたのが、中世より自由都市として豊かな海外交流と文化受容の歴史を持つ堺市でした。市民へ質の高い芸術文化を提供したいという堺市の文化政策ビジョンと遺族の想いが合致し、平成期に一括受託・寄贈が実現。こうして世界でも類を見ない公立の専門展示施設が誕生したのです。
単なるポスター展示にとどまらず、ミュシャの家族写真やアトリエの息遣いを感じさせるプライベート資料まで保管されている点は、世界中の美術研究者からも高く評価されています。