結婚と出産を経て、女優業の第一線から距離を置いているように見える吹石一恵さんですが、現在のスタンスは「完全引退」ではなく、母性と知性を活かした厳選された活動へのシフトです。
その代表例が、NHKの長寿人気番組『ドキュメント72時間』でのナレーションです。感情を過剰に乗せず、市井の人々に寄り添う温かみのある語り口は視聴者から極めて高い評価を獲得しています。長期間の拘束を伴う連続ドラマの主演や映画の過密スケジュールを避け、声の仕事や単発の良質なドキュメンタリー、CM出演を中心に据える働き方は、家庭と子育てを最優先にする彼女自身の意志によるものです。
元プロ野球選手・吹石徳一氏を父に持つ吹石さんは、幼少期から「勝負の世界に生きる男」のストイシズムを間近で見て育ちました。トップエンターテイナーとして巨大なプレッシャーと闘い続ける夫を支え、自らの露出をコントロールして家庭の防波堤となるスタンスは、芸能界広しといえども稀有な自律性と言えます。妻の露出が控えめであることイコール不仲や抑圧と解釈するのは、あまりに表層的な見方に過ぎません。