グランフロント大阪店は、決して客足が途絶えていたわけではありません。むしろランチタイムやディナーのピーク時には1〜2時間待ちが当たり前だった屈指の繁盛店でした。それにもかかわらず、なぜ撤退という苦渋の決断に至ったのか。外食ビジネスの構造変化と当時の業界動向を取材すると、複合的な3つの要因が浮き彫りになります。
第1の要因は、コロナ禍による商業施設の集客激変と高額な固定費負担です。グランフロント大阪のような超一等地の大規模商業施設(SC)は、坪あたりの賃料や共益費が極めて高額に設定されています。2020年から2021年にかけて断続的に発令された緊急事態宣言、アルコール提供の停止、時短要請、さらにはインバウンド(訪日外国人客)と広域ビジネス客の消失は、客単価3,000円〜5,000円前後のプレミアム回転寿司業態にとって致命的な打撃となりました。
第2の要因は、函館からの空輸・低温チルド物流コストの急騰です。函太郎の最大の強みは「函館市場直送の鮮魚」にありました。しかし、感染症拡大による航空便の減便・運休が直撃し、続いて原油高や「物流の2024年問題」に端を発する輸送コストの上昇が重なりました。職人が一貫ずつ手握りする高い原価率(F比率)を維持したまま、遠隔地である大阪・梅田の店舗へ毎日高鮮度のネタを運び続けるオペレーションは、採算ラインを著しく圧迫することになったのです。
第3の要因は、運営会社「株式会社エイチケイアール(HK-R)」のドミナント戦略と経営資源の集中です。エイチケイアールは、創業の地である北海道(函館・千歳など)を中心に、東北および首都圏(東京駅一番街、羽田空港、銀座、丸の内など)への出店に注力してきました。物流網が確立された首都圏や本拠地北海道に投資を集中させ、関西圏にポツンと1店舗のみ孤立していたグランフロント大阪店を整理することは、経営合理化の観点から避けられない選択だったと分析されています。