「感情失禁」とは、医学的には情動調節障害の一種であり、感情の表出を大脳が自発的にコントロールできなくなる状態を指します。英語圏では「PBA(Pseudobulbar Affect:仮性球麻痺性情動障害)」とも呼ばれ、国際的にも脳神経疾患の重大な随伴症状として位置づけられています。最大の特徴は、感情の高まりと表出行動のバランスが完全に崩れ、些細な刺激や無関係なきっかけによって、突発的かつ激しい泣き笑いが生じる点にあります。
一般的に「涙もろくなった」「歳のせいで感情が豊かになった」と捉えられがちですが、感情失禁はそれらと一線を画します。患者自身は決して深い悲しみを感じているわけではないにもかかわらず、蛇口が壊れたかのように涙が溢れ出し、数分間にわたって嗚咽が止まらなくなります。臨床現場の聞き取り調査でも、「悲しい気持ちはないのに、勝手に顔の筋肉が歪んで涙が出てくる」「止めようとすればするほど発作のように激しくなる」といった当事者の苦痛が報告されています。
これを単なる「わがまま」「甘え」「うつ病による気分の落ち込み」と誤解して周囲が叱責したり、理由をしつこく問い詰めたりすることは、患者を著しい孤立感と抑うつ状態へ追い込む危険性を孕んでいます。感情失禁は、意思の力では決して制御できない「中枢神経系の異常発火」であり、適切な医学的アプローチが必要な病態であることを認識しなければなりません。