「スタジアムに行けば熱気で圧倒されるのに、自宅のテレビで見ていると何を言っているのかモゴモゴして全く聞き取れない」という疑問は、インターネット上の掲示板やSNSでも長年にわたって投稿され続けています。
放送関係者の解説や音響工学の観点からこの現象を検証すると、主に3つの明確な物理的要因が存在することが判明しています。
第1の要因は、「大規模スタジアム特有の音響ディレイ(時間差遅延)」です。埼玉スタジアム2002や国立競技場のような6万人規模の会場では、ゴール裏サポーターの発声が反対側のスタンドや中継マイクに到達するまでに約0.1秒〜0.2秒以上のタイムラグが発生します。スタンドの各ブロックから届く歌声の位相がわずかにズレることで、子音(カ行、タ行、サ行など)の明瞭度が著しく損なわれ、母音の残響だけが重なり合って「モゴモゴ」とした塊に聞こえてしまうのです。
第2の要因は、「中継放送における音声ミキシングのバランス」です。テレビ局の中継制作では、実況アナウンサーの声やピッチ上のボールを蹴る音、審判のホイッスルを最優先でクリアに届けるため、場内集音マイクの音量コンプレッサーを調整しています。スタンド全体の応援歌は背景音(アンビエンス)として処理されるため、歌詞の輪郭が意図的に丸められている側面があります。
第3の要因は、「外国語の借用と日本語の音節構造の差異」です。「Vamos」や「Olé」といったスペイン語由来の単語は、日本語特有の高低アクセントとは異なるリズム感で発音されるため、耳が日本語の単語として認識しようと脳内で補正をかけ、結果として意味不明なノイズに聞こえてしまう心理的要因も絡んでいます。