多くの人が「涙に含まれる塩分が皮膚に触れることで目が腫れる」と信じ込んでいますが、眼科医や皮膚科専門医の見解によれば、それは主たる要因ではありません。感情的な高ぶりによって流れる涙は、安静時に眼球を潤す基礎分泌の涙に比べて浸透圧が低く、周辺組織との浸透圧差を生じさせやすい性質はあるものの、皮膚をあれほど急激に浮腫ませる直接的な破壊力は持っていません。
泣いて目が腫れる原因とメカニズムの最大の元凶は、無意識に行われるまぶたの毛細血管拡張と摩擦です。涙がこぼれ落ちる際、私たちはティッシュや手、ハンカチで何度も目元を強く押し拭ってしまいます。眼瞼(がんけん)の皮膚の厚みはわずか約0.5ミリメートルしかなく、ゆで卵の薄皮と同等レベルの繊細さしかありません。激しくこすり合わせる物理的摩擦によって皮膚組織内でヒスタミンなどの炎症性物質が遊走し、毛細血管が一気に拡張して血管透過性が亢進します。
その結果、血管内から組織の隙間(細胞間質)へと大量の水分・血漿成分が漏れ出し、行き場を失った水分が目の周辺に滞留します。これが、泣いた直後に生じる炎症性浮腫の正体です。さらに号泣時は自律神経が興奮状態から一気に弛緩へと揺れ動き、血圧の急変やまばたきの回数減少が重なることで、わずか数十分のうちに重度の腫れが完成してしまうのです。