SNSや地方報道の現場取材では、「自宅の庭先に昼の13時に現れた」「夜間23時にゴミ集積所を荒らしていた」といった生々しい証言が日常化しています。なぜ人里周辺で時間帯の乱れが生じているのでしょうか。野生動物の行動生態学および現地調査から、主に3つの構造的要因が指摘されています。
第1に、「人慣れ( habituation )した新世代クマの誕生」です。母グマが人里近くの果樹園や生ゴミを安全な餌場として利用し、その姿を見て育った子グマは、人間の生活音や車両の走行音を「危険」と認識しません。恐怖心を持たない個体は、人間が活動する日中の時間帯であっても物怖じせず餌場を徘徊します。
第2に、「夜間の静けさを利用した市街地侵入」です。警戒心が残っている個体であっても、深夜から未明の静まり返った時間帯を狙って住宅地深くまで侵入し、未収穫の柿や栗、放置されたペットフードなどを漁ります。そして夜が明けた際に帰り道を失い、パニック状態で日中の市街地に取り残されるという経緯が後を絶ちません。
第3に、「里山という緩衝地帯の消失」です。過疎化と林業の衰退により、かつて人と野生動物を隔てていた薪炭林や草刈り場が荒廃し、森林の藪が住宅街のすぐ裏手まで連続しています。身を隠せる緑陰があれば、熊は白昼であっても人目を避けて移動できるため、結果として日中の生活圏遭遇が激増しているのです。