ネット上で「モップ犬」と総称される犬種には、主に東欧から南欧にかけての牧畜地帯で数百年以上前から人間と共に働いてきた、いくつかの明確な系統が存在します。その中でも世界的な知名度を誇る二大巨頭が、ハンガリー原産のコモンドール(Komondor)とプーリー(Puli)です。
両者は同じ地域にルーツを持ち、共に特徴的な縄状毛(コード被毛)を全身にまとっていますが、その体格、役割、歴史的背景には明確な差異が存在します。
まず、ひときわ巨大で白いモップのような圧倒的威容を誇るのがコモンドールです。体高は約65〜70センチ以上、体重は大型個体で50〜60キロ近くに達する堂々たる大型犬であり、分類上は牧羊犬ではなく「家畜護衛犬(LGD:Livestock Guardian Dog)」に位置づけられます。羊の群れを誘導して走るのではなく、群れの中に身を潜め、家畜を狙って襲撃してくる狼、熊、人間などの捕食者を返り討ちにする警護任務を専門としてきました。
一方、中型犬サイズで軽快に飛び跳ねる黒やグレー、白のモップ犬がプーリー 犬種です。体高は約40センチ前後、体重は10〜15キロ程度とコモンドールに比べて格段にコンパクトで、こちらは機敏に走り回って羊の群れをまとめ上げる「牧羊犬」として重宝されてきました。非常に賢く、活発で運動性能に優れ、時に羊の背中の上を飛び跳ねて移動するアクロバティックな身のこなしを見せることでも知られています。
さらに、近年ドッグ愛好家の間で注目を集めているのが、イタリア原産の希少犬種であるバーガマスコ(バーガマスコ・シェパード・ドッグ)です。コモンドールやプーリーが細い「ロープ状(ドレッドヘア)」の束を形成するのに対し、バーガマスコの被毛は「フェルト状の平たい板(マット毛)」のように固まり、全身を鎧のように覆うという独自の進化を遂げています。
なお、一般にモップ犬と混同されやすい英国原産のオールドイングリッシュシープドッグは、豊かなダブルコートの超長毛種であり、本来の毛質はドレッドヘア状に固めるものではなく、綿密なブラッシングでフサフサに保つ犬種であるため、毛束の構造そのものが根本から異なります。