今までできていた生活習慣を放棄し、まるで赤ん坊のように振る舞う現象は、専門的には「幼児退行(Regression)」と呼ばれます。これは子どもが大きなストレスや不安、環境の変化に直面した際、かつて最も無条件に愛され、保護されていた過去の発達段階へと無意識に避難する防衛機制の一種です。
その引き金として最も多いのが、「二人目の妊娠」と「下の子の誕生」です。妊娠初期の母親の体調不良(つわり)や抱っこの制限、そして出産に伴う入院や新生児の育児開始によって、上の子がこれまで独占していた親の愛情と時間は突如として分断されます。発達臨床の現場では、この体験は子どもにとって「ある日突然、パートナーが別の相手を家に連れてきて、最優先で世話をし始めたような強烈な喪失感と恐怖」に匹敵すると表現されます。
言葉での感情表現が未熟な幼児期の子どもは、「寂しい」「私を見てほしい」「愛されている実感がほしい」という切実な思いを論理的に訴えることができません。その結果、「赤ちゃんと同じ状態になれば、ママやパパはもう一度自分だけを見てくれるのではないか」という無意識の計算が働き、行動として表出するのです。