ビジネス文書やメールの結び言葉として定着しているように見える「お身体ご自愛ください」ですが、国語表現としては「二重表現(重言)」に該当します。「頭痛が痛い」「後で後悔する」といった重複表現と同様に、同じ意味の単語を重ねてしまっている状態です。
言葉の成り立ちを紐解くと、漢語である「自愛(じあい)」には「自分自身の体を大切にし、健康に気を配る」という意味が最初から内在しています。つまり、「自愛」という単語それ自体が「身体をいたわる」という動作を示しているため、その前に「お身体」や「お体」を付与すると、「自分の身体の身体を大切にしてください」という無意味な重複が発生してしまうのです。
したがって、文法的に正しい標準形は、余計な言葉を足さずに「ご自愛ください」と表記することです。相手を敬う接頭語の「ご」と、慈しみを表す「自愛」、補助動詞「ください」で構成されており、これだけで完全に丁寧な敬語表現として成立しています。
「お体」と「お身体」における漢字の使い分けとニュアンス
日常の文章では「お体」と「お身体」のどちらを使うべきか迷う場面も少なくありません。常用漢字表においては「体(からだ)」が標準的な訓読みとされており、公用文や新聞報道などでは基本的に「お体」と表記されます。
一方で「身体」は、肉体だけでなく「心と体(心身)」を含めた全体像を指すニュアンスを持つ言葉として好まれてきた歴史があります。ビジネスレターや私信で丁寧さを際立たせたい場面では「お身体」という表記も広く親しまれていますが、いずれの漢字を用いる場合であっても「ご自愛ください」と接続する際には重複表現となるため、結びの言葉としては単体で「ご自愛ください」と記すのが正しいマナーです。