ファンの間で今も語り草となっているのが、映画版のメインヒロイン・松尾みゆき(長澤まさみ)と藤本幸世(森山未來)による、衝動的で切ないキスシーンです。ショートカットにイメチェンし、健康的な色気を放つ長澤まさみの破壊力は当時「長澤まさみ史上最高に可愛い」と評され、映画の興行収入22.2億円を突破する原動力となりました。
特に話題を呼んだのが、泥酔したみゆきが幸世の自宅上がり込み、ベッドの上で繰り広げられるキスシーンです。ネット上では「森山未來のアドリブではないか」「本当に唇を奪い合っていたのではないか」といった噂が長年囁かれてきました。しかし、劇場パンフレットや当時の特別インタビューにおける大根仁監督とキャストの証言を検証すると、意外な舞台裏が浮かび上がります。
大根監督の演出スタイルは、テスト段階から感情を極限まで高めさせ、役者に「役としての本能」を引き出させる手法を取ります。長澤自身も当時の舞台挨拶で「幸世のみっともなさと愛おしさに引っ張られて、無我夢中でぶつかった」と述懐しており、綿密なリハーサルを重ねた上で、現場の空気感をそのまま封じ込めたテイクが採用されました。作為を感じさせない乱れた息遣いや仕草こそが、観客にアドリブと錯覚させるほどのリアリティを生み出した要因です。
一方、対照的な名場面として語られるのが枡本留美(麻生久美子)との車中キスです。牛丼屋の帰り道、行き場のない孤独と重すぎる愛情を抱えた留美が幸世にすがるシーンは、見る者の胸を締め付けました。麻生久美子の鬼気迫る号泣演技と、罪悪感に押しつぶされそうになりながら応じる森山未來の表情の揺らぎは、単なる色気にとどまらない人間の業を描き切った屈指のシークエンスとして絶賛されています。