指先の爪と皮膚の境界部分が肥厚し、爪全体がドーム状に弯曲するばち状指の原因には、血流循環および局所の成長因子が深く関与している。体内で慢性的な低酸素状態が続いたり、肺や心臓の血管系に異常が生じたりすると、骨髄由来の巨核球や血小板の破片が肺循環で適切に捕捉・細分化されず、直接全身の末梢動脈へと流れ込む。これが指先の微細な毛細血管に留まることで、血管内皮増殖因子(VEGF)や血小板由来増殖因子(PDGF)などのサイトカインが過剰に放出される。
これらの化学伝達物質が爪床(爪の下の皮膚組織)の毛細血管を異常増殖させ、結合組織を増生させることで、軟部組織が緩やかに肥大化して特有の丸みを帯びた形状へと変化する。臨床現場で患者から頻繁に寄せられる「なぜこれほど変形しているのに全く痛まないのか」という疑問に対する医学的な答えはここにある。
ばち状指が痛くない理由は、急性外傷や細菌感染のような急激な炎症性浮腫や神経圧迫を伴わず、数週間から数カ月という時間をかけて結合組織と血管網が緩徐に再構築されるためだ。知覚神経を急激に刺激するブラジキニンやプロスタグランジンといった発痛物質の急激な上昇がないため、患者本人が指先の変形に無自覚なまま進行してしまう特徴を持つ。