脂が乗りきり、日本を代表する名優として円熟期を迎えつつあった1982年12月28日、岸田森は食道がんのため43歳という若さで急逝しました。このあまりにも早すぎる訃報は、演劇界・映画界のみならず、日本中のファンに計り知れない衝撃を与えました。
報道各社や当時の関係者の回想録によると、異変が現れ始めたのは亡くなる数か月前のことでした。激しい喉の痛みや嚥下困難を覚えながらも、岸田森は舞台や撮影のスケジュールを最優先にし、自らの体調不良を押して現場に立ち続けました。晩年は急速に病状が悪化し、入院を余儀なくされましたが、病床にあっても常に台本を手放さず、復帰への強い執念を燃やしていたと伝えられています。
無頼派を地で行くようなヘビースモーカーであり、無類の酒好きとしても知られていた岸田森。昭和の表現者らしい豪快な生き様の一方で、内面には常に孤独と表現への渇望が渦巻いていました。最期を看取った関係者は、彼が最後まで「俳優・岸田森」としての気高さを失わず、自らの死期を悟りながらも芝居への情熱を語り続けていた姿を証言しています。43年という短い生涯ではありましたが、彼が遺した強烈な熱量は、没後40年以上が経過した現在も決して風化していません。