ネット上のQ&AサイトやSNSで頻繁に見受けられるのが、「べと病の玉ねぎは食べても平気か」という疑問と、「手作りの酢スプレーで完治できる」という言説です。これらには事実と危険な誤解が入り混じっています。
まず、玉ねぎべと病食べられるかという問いに対する結論は、「肥大した可食部自体に人体への毒性はないが、収穫・保存には適さない」となります。べと病菌は植物寄生菌であり、ヒトの体内に入っても害を及ぼす毒素(マイコトキシンなど)は産生しません。外側の病葉を剥ぎ取り、内部の鱗片が無事であれば加熱調理して食することは可能です。
しかし、べと病に侵された玉ねぎは光合成が阻害されて糖度が上がらず、球の充実度が著しく劣ります。さらに最大の問題は、組織が軟弱化しているため、軟腐病などの二次細菌が侵入しやすく、収穫後に保管しても数週間足らずでドロドロに腐敗する点です。「せっかく育てたから吊り玉にして保存しよう」という判断は、保管場所全体に腐敗臭と腐敗菌を撒き散らす結果につながります。
また、自然派志向の菜園家が愛用する玉ねぎべと病無農薬酢スプレー(食酢を300〜500倍に希釈した液)についても冷静な見極めが必要です。酢に含まれる酢酸の静菌作用により、葉表面のpHを酸性に傾けて菌糸の発芽をわずかに抑える「初期の予防補助」としては一定の意義があります。しかし、すでに組織内に菌糸を伸ばしたべと病を死滅させる治療効果は皆無です。高濃度の散布は葉のワックス層を破壊し、かえって病原菌の侵入を助長する薬害リスクすら孕んでいます。