駅の真上に広がる神田古書店街は、およそ130軒もの古書店が軒を連ねる世界屈指の知の宝庫だ。南向きの店舗が多いのは、貴重な古書が直射日光によって日焼けするのを防ぐという、先人たちの知恵に由来している。専門書、浮世絵、初版本、絶版のサブカルチャー誌まで、ありとあらゆる紙の文化財がこの小さなエリアに凝縮されている。
この街の文脈を語る上で欠かせないのが、文豪・夏目漱石の存在だ。明治時代、東京帝国大学や近隣の学校で教鞭を執り、思索を深めた漱石は、この界隈の書店を頻繁に訪れては洋書を買い漁っていた。『吾輩は猫である』や『こころ』などの名作にも神田周辺の風景が影を落としており、彼が歩いた街並みの骨格は、令和の現代にもしっかりと受け継がれている。