肉じゃがを巡る議論で必ず浮上するのが、関西圏を中心に愛される「牛肉」と、関東・東日本で主流の「豚肉」という肉じゃが牛肉豚肉違いです。歴史的・地域的な嗜好の違いとして語られがちですが、調理科学の観点から見れば、使用する肉の脂質特性によって調味料の配合バランスを微調整する必要があります。
牛肉の最大の特徴は、融点が約40℃〜50℃と高めの脂身に含まれる芳醇な香気成分と、赤身に豊富に含まれる「イノシン酸」です。牛肉特有の力強いコクに負けないよう、調味料にはしっかりとした甘みと醤油の香ばしさが求められます。そのため、牛肉仕立ての肉じゃがには砂糖をやや多めに効かせた、すき焼き風の濃厚な黄金比(醤油1:みりん1:砂糖1)が最もマッチします。
一方の豚肉は、脂の融点が約33℃〜46℃と低く、舌の上でサラリと溶ける特性を持ちます。さらに豚肉には疲労回復に寄与するビタミンB1が豊富で、赤身の旨味とともに淡白で優しい甘みを帯びています。豚肉を用いる場合は、牛肉と同じ濃厚な甘辛さにしてしまうと豚の繊細な旨味が打ち消されてしまうため、砂糖を控えめにして酒を多めに利かせるか、白だしや生姜の絞り汁を隠し味に加えることで、キレのある上品な後味に整えるのが料理人の鉄則です。