アングラな一部のコミュニティに留まっていた映像が、爆発的な社会現象へと飛躍した転換点は、2000年代後半から2010年代前半にかけての「ニコニコ動画」の台頭です。動画編集技術の民主化とともに、切り抜かれた映像や音声がMAD動画の素材として大量投下されました。
特に普及を後押ししたのが「BB(ブルーバック)素材」の存在です。背景を透過させた野獣先輩の姿が、アニメ、ゲーム、ニュース映像などあらゆる文脈に合成され、無尽蔵に新たなコンテンツが生み出されました。本人の意思や出自とは完全に切り離され、誰もが自由に加工・消費できる「フリー素材化」が進んだのです。
メディア論の観点から見れば、野獣先輩は「中身が空っぽであるがゆえに、どんな意味でも代入できる空虚なシニフィアン(記号)」として機能しました。政治批判から純粋なギャグ、音楽的実験まで、ネットユーザーのあらゆる表現欲求を受け止める受け皿となったことが、他の追随を許さない長期的な流行を生んだ本質的な理由です。