演劇界において、彼の名が決定的な刻印を残した瞬間がある。1989年の岸田國士戯曲賞受賞だ。戯曲『蒲団と達磨』などでみせた圧倒的な台詞のセンスは、当時の小劇場運動の熱気とは一線を画す日常のゆがみを描き出した。
会話の行間から滲み出る人間関係のひび割れ。沈黙の持つ重苦しさ。劇作家・岩松了が生み出す現代劇は、観客の無意識にそっと忍び込む毒を含んでいる。ただ説明的なセリフで物語を進めるのではなく、言葉にならない吐息や言い淀みの中に本質を潜ませる手法は、今なお日本の舞台芸術に決定的な影響を与え続けている。