ネット上の情報やSNS動画の中には、「首筋を押すだけで血圧が30mmHg下がる裏ワザ」と称して頸部のツボを無邪気に推奨するコンテンツが散見されます。しかし、この人迎血圧下げるノウハウには、医療従事者が戦慄するほどの重大な罠が潜んでいます。
毎日新聞「医療プレミア」において渡辺尚彦医師が強く警告している通り、人迎はのど仏から指の幅2本分外側、総頸動脈が拍動している極めてデリケートな位置にあります。この動脈壁には「頸動脈洞(けいどうみゃくどう)」と呼ばれる血圧センサー(圧受容器)が埋め込まれています。指でここを強く圧迫すると、脳は「血圧が異常に跳ね上がった」と誤認し、心拍数を激減させ全身の血管を一気に弛緩させる「迷走神経反射(頸動脈洞反射)」の引き金を引いてしまいます。
その結果生じるのは、血圧の緩やかな適正化ではなく、脳貧血による目の前暗黒感、急激な失神、さらには心停止の危険です。特に動脈硬化が進んだ中高年層の場合、頸動脈壁に付着したプラークが圧迫によって剥がれ落ち、脳塞栓症を引き起こす恐れすらあります。「確かに数値は急激に下がるが、命を落としては元も子もない」というのが循環器専門医の一致した見解です。首周りのツボ押しは素人判断で決して触れてはならず、セルフケアの対象は必ず耳や手足などの末梢経穴に限定しなければなりません。