世間を最も戦慄させたのは、二人の児童を死に至らしめた理由の常軌を逸した不可解さでした。なぜ自らの血を分けた我が子を手にかけ、さらに関係のない隣家の幼子を標的に選んだのか。公判や捜査段階の供述から浮き彫りになったのは、成熟した大人とは程遠い、あまりに身勝手で衝動的な感情の暴走でした。
彩香ちゃん殺害に至る動機について、鈴香は「川に魚を見に行こうとせがまれ、大川橋へ連れて行ったが、車から降りた彩香が欄干に登ってふざけた。注意しても言うことを聞かず、甘えてくる姿に激しい苛立ちを覚えた」と供述しています。日頃からシングルマザーとしての生活苦や育児ストレスを抱えていた鈴香は、その瞬間に突如として湧き上がった「うるさい、邪魔だ、いなくなればいい」という短絡的な感情に支配され、欄干に座っていた彩香ちゃんの背中を両手で突き落としました。計画性は一切なく、突発的かつ衝動的な犯行でした。
一方で、豪憲くん殺害の動機は、彩香ちゃんの死によってさらに歪んだ精神状態が生み出した、極めて自己中心的な怨嗟と自己保身でした。捜査資料や法廷での証言によれば、動機は大きく二つの歪んだ論理に集約されます。
一つは、隣家への理不尽な嫉妬です。彩香ちゃんを亡くして以降、隣の家から聞こえてくる豪憲くんの無邪気な笑い声や元気な姿を目にするたび、「なぜうちの彩香が死んだのに、隣の子は平気で生きているのか」という逆恨みにも似た怒りを募らせていました。もう一つは、警察の再捜査を誘発するための偽装工作です。彩香ちゃんの死を頑なに事件だと主張していた鈴香は、「近隣で別の凶悪な連れ去り事件が起きれば、警察は同一犯による連続事件だと考え、彩香の死も事件として本気で捜査し直してくれるはずだ」という狂気の着想を抱いたのです。
自らの嘘を真実にするために他人の命を身代わりにするという身勝極まる発想。そこには他者への共感能力が著しく欠如し、自分自身の感情や体面を何よりも優先させる異常な心理構造が存在していました。