松尾嘉代の真骨頂といえば、一度見たら忘れられない強烈な役柄の数々だ。例えば、渡辺祐介監督によるサスペンス傑作『黒の奔流』で見せた、欲望と愛憎の渦に惑う女の凄み。あるいは、石井輝男監督が手掛けた異色作『怪談昇り竜』における、背中に龍の刺青を背負った怪艶な刺客役。そこには、観る者を射すくめる眼光と、一瞬の隙に見せる儚さが同居していた。
主役を喰うほどの圧倒的な画面占有率は、今なお映画批評家や映画ファンの語り草となっている。彼女がスクリーンに投げかけた陰影こそが、後に写真集で見せる深い情念のバックボーンとなっていたのだ。