レッドリップバットフィッシュが暮らすのは、南米エクアドル本土から西へ約1,000キロメートル離れたガラパゴス諸島周辺の海域、およびコスタリカ沖に位置するココス島周辺です。チャールズ・ダーウィンの進化論の舞台となったこの海域は、冷たいフンボルト海流と暖かいパナマ海流が複雑に交錯する、地球上で最も特異な海洋生態系の一つとして知られています。
現地のダイビングガイドや海洋調査チームの記録によると、彼らの姿は水深15〜30メートル付近の平坦な砂地やサンゴ礁の裾野で頻繁に確認されています。実際に現地で目撃したベテランダイバーの手記には、その生々しい様子が次のように綴られています。
「底砂の上に不自然に鎮座している姿は、遠目にはゴツゴツとした岩のかけらにしか見えない。だが近づくと、不機嫌そうにへの字に結ばれた唇だけが、まるでネオンサインのように赤々と光を放っていた。ダイバーがカメラを向けても逃げ出す気配すら見せず、胸ビレをモゾモゾと動かして数歩だけ歩き、再びピタリと静止する。その堂々たる鈍くささは、魚というより海底の奇妙な小動物そのものだった」
SNSや動画サイトでは「水深数百メートルの暗黒の深海で蠢く怪魚」といったセンセーショナルな切り口で拡散されがちですが、現地のダイビングポイント(例えばガラパゴス諸島のタグス・コーブやビセンテ・ロカ岬など)では、ライセンスを持つ一般ダイバーが日常のファンダイブで遭遇できる深度に生息しています。過剰なオカルト化を排した「等身大の生態観察」こそが、この魚の進化の妙味を最もダイレクトに伝えてくれます。