名門焼き鳥店でよく耳にする「創業以来、何十年もつぎ足し続けてきた秘伝のタレ」。衛生面での疑問を持つ方もいるかもしれませんが、そこには食品科学に基づく明確な理由が存在します。
まず腐敗しない理由として、タレ自体の高い塩分濃度と糖度が挙げられます。微生物が繁殖しにくい浸透圧環境が保たれている上、営業中は高温で焼き上げられた熱々の肉串が何度もくぐらされ、営業後には定期的に火入れ(加熱殺菌)が行われるため、雑菌が繁殖する余地がありません。
そして、つぎ足しによって生まれる圧倒的なコクの正体は、タレの中に溶け出した鶏肉のエキスです。何千本、何万本もの焼き立ての鶏肉をくぐらせるうちに、鶏の脂、ゼラチン質(コラーゲン)、アミノ酸(グルタミン酸やイノシン酸)がタレの中に蓄積されます。これが熱によってタレの糖分と結びつき、家庭では出せない重層的な旨味を生み出しているのです。
このプロの味を家庭で即座に再現する裏ワザがあります。タレを煮詰める際、あらかじめ香ばしく素焼きした「鶏皮」や「手羽先の骨」を小鍋に投入して一緒に煮込む手法です。鶏の良質な脂とコラーゲンが短時間でタレに溶け出し、長年つぎ足した老舗のような芳醇な風味を手軽に抽出できます。