長年、英語圏の批評家やファンの間でも「歌詞の意味が破綻している」と突っ込まれ続けてきた『I Want It That Way』。具体的にどこがどう矛盾しているのか、制作の背景から紐解いていきます。
問題の核心は、バース(Aメロ・Bメロ)とコーラス(サビ)の論理的関係にあります。冒頭で「You are my fire, the one desire(君は僕の情熱、唯一の望み)」と激しい愛を歌いながらも、「But we are two worlds apart(でも僕たちは二つの異なる世界に引き裂かれている)」と距離感が示されます。そしてサビでは決定的なフレーズが登場します。
「Tell me why, ain’t nothin' but a heartache / Ain’t nothin' but a mistake / I never wanna hear you say, I want it that way(教えてほしい、心の痛みなんかいらない / 過ちなんかいらない / 君が『そんな関係を望んでいる』なんて言うのは聞きたくない)」
ここで疑問が生じます。主人公は「心の痛みや過ち(=that way)を望まない」と拒絶しているのか、それともラストサビで自ら歌うように「僕こそがその関係(that way)を望んでいる」のか、文法的な指示対象が逆転しているのです。恋人と一緒にいたいのか、別れたいのか、歌詞をストレートに追うと意味が前後で衝突してしまいます。
この謎を解く鍵は、希代のヒットメーカーであるマックス・マーティン(Max Martin)とアンドレアス・カールソン(Andreas Carlsson)の母国語にありました。当時ストックホルムの「Cheiron Studios」を拠点にしていた彼らはスウェーデン人であり、英語は第二言語でした。マックス・マーティンが曲作りの信条としていたのは、意味の正しさではなく「英語の単語が持つ母音の響き、リズム、メロディへの乗り方(Melodic Math)」でした。
当時の特番インタビューや手記において、メンバーのケヴィン・リチャードソンは「マックスの英語は当時完璧ではなかった。彼はただ『That way』という語感がメロディに最も美しくハマると信じていたんだ」と証言しています。つまり、文脈の整合性を犠牲にしてでも、聴く者の感情を直撃する完璧な音韻を選び抜いた結果だったのです。