奇妙な料理名のルーツを辿ると、本場イタリア料理の伝統と、日本の豊かなアレンジ文化の交差点に行き着く。イタリアには古くから「スパゲッティ・アッラ・ディスペラータ(Spaghetti alla disperata)」と呼ばれる料理が存在する。直訳すれば「絶望のスパゲッティ」だ。その由来には諸説ある。「冷蔵庫に何もない絶望的な貧困状態でも、買い置きのオリーブやアンチョビ、ニンニクだけで作れる」という家庭の知恵から名付けられたという説が有力だ。
しかし、日本で親しまれている一皿は、本国の質素なオイルパスタとはまるで様相が異なる。たっぷりのキノコ、すりおろした黒オリーブ、そしてトマトクリームが一体となった重厚なスープパスタへと変貌を遂げた。「シャツにスープが飛び散ると黒オリーブの色素が落ちず絶望する」「厨房のシェフが仕込みの手間と飛び散るソースの掃除に絶望する」など、現場の生々しい実感を伴う都市伝説的なストーリーが重なり、日本独自のアイデンティティを確立していった。