土光臨調の推進力を決定的なものにしたのは、政治的な駆け引きではなく、あるテレビ番組が映し出した土光の飾らない日常だった。当時放映されたNHKスペシャル「行革と土光さん」は、日本中に凄まじい衝撃を与えた。
画面に映し出されたのは、質素な木造家屋で妻とふたり、夕食にメザシと菜っ葉、味噌汁を口にする85歳の財界トップの姿だった。巨額の報酬を得ていたはずの土光だが、自身の生活費以外はすべて母親が創設した学校法人橘学苑へ寄付していた。贅沢を一切好まず、私腹を肥やすことと無縁の生活。「このじいさんに嘘はない」――国民は直感した。国民に我慢を強いる前に、自分が最も爪に火をともす生活を送る。この圧倒的な説得力こそが、世論を味方につけ、抵抗勢力を沈黙させた最大の武器だった。