小説の持つ凍りつくような緊迫感を見事に映像化したのが、1986年に公開された映画『海と毒薬』だ。社会派映画の巨匠・熊井啓監督の手によって、白黒のモノクローム映像として銀幕に蘇った。光と影が織りなす圧倒的な臨場感は、観客を執刀室の歪んだ空気感へと引きずり込む。
ベルリン国際映画祭で審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞した本作は、映画史に残る傑作として高く評価された。主演の奥田瑛二や渡辺篤史らの気迫あふれる演技は、人間の弱さと狂気の境界線を鋭く表現している。血の通った人間が、ただの「検体」へと成り下がっていく過程を静観するカメラワークは、まさに熊井啓の真骨頂と言える。