『バイバイン』の物語は至ってシンプルだ。主人公の野比のび太が、大好物の栗まんじゅうを前に「食べても減らないようにしたい」と願うことから始まる。ドラえもんが取り出した薬「バイバイン」を1滴ふりかけると、対象物は5分ごとに2倍に増殖する。条件はただ一つ、残さず食べ切ること。
だが、増え続けるスピードは人間の胃袋の限界をあっけなく突破する。1個が2個、2個が4個、4個が8個……。のび太は友達や家族に配って処理を試みるものの、爆発的な増加速度には到底追いつかない。庭の隅に積み上げられた栗まんじゅうの山を前に絶望する場面は、全世代の読者を凍りつかせた。
小学館刊行の『てんとう虫コミックス』第17巻に収録されている原作のラストシーンはあまりにも有名だ。手遅れとなった栗まんじゅうは、小型ロケットに乗せられて宇宙空間へと打ち上げられる。何事も解決していないまま、漆黒の宇宙へ漂い去る栗まんじゅうを描いて物語は唐突に幕を閉じる。この不気味な余韻を残す結末こそが、長年にわたり語り継がれる最大の理由だ。