楽曲の舞台として描かれるのは、草木も生えぬ乾ききった「荒野」です。水も目的地も見失った過酷な旅の途上、突如として主人公の眼前に現れるのが「アゲハ蝶」でした。このシチュエーション自体が、アゲハ蝶の歌詞の世界観における強烈なメタファーとして機能しています。
アゲハ蝶は本来、湿り気のある野原や花々が咲き誇る土地を好む生き物であり、乾いた荒野にはおよそ似つかわしくありません。にもかかわらず、幻影のようにひらひらと宙を舞うその姿は、孤独な旅人にとって過酷な現実の中で出会ってしまった「唯一の光」であり、同時に「手を伸ばせば壊れてしまう禁断の存在」です。蝶の羽は薄く、人間が指先で触れれば鱗粉が剥がれ落ち、二度と飛べなくなってしまいます。
ここにアゲハ蝶の歌詞に潜む片思いの真相があります。相手を渇望し、抱きしめたいと願いながらも、触れれば相手の美しさを奪い、自らも破滅してしまう。荒野という極限状況だからこそ、対象に対する執着は純粋化され、狂気すれすれの熱量へと昇華していくのです。「愛されたい」と願うことそのものが相手への冒涜になりかねないという禁欲的な葛藤が、全編を通じて張り詰めた緊張感を生み出しています。