外部からの衝撃によって人間が「ノックアウト(KO)」される現象には、部位ごとに異なる3つの医学的経路が存在します。
1. こめかみ打撃による回転性脳震盪
頭部の側面、特にこめかみ周辺への水平打撃が加わると、頭蓋骨は急激な回旋加速度(Rotational Acceleration)を受けます。頭蓋骨の内部に浮いている脳は、慣性の法則によって頭蓋骨の内壁に激しく衝突します。この際、脳幹網様体と呼ばれる意識を維持する中枢システムに剪断(せんだん)応力が加わり、電気信号が遮断されて意識消失に至ります。
2. 延髄への直撃が引き起こす自律神経停止
首の後ろ、頭蓋骨の付け根に位置する延髄には、心拍数や血圧、呼吸運動を司る重要中枢が濃縮されています。ここへの打撃は脳震盪にとどまらず、心臓への拍動指令そのものを停止させる恐れがあります。交通事故や不慮の転倒で頸椎脱臼骨折を伴う延髄損傷が発生した場合、受傷現場で心肺停止に陥る確率が80%を超えるとされるのもこのためです。
3. 鳩尾(みぞおち)への衝撃と太陽神経叢ショック
腹部中央の鳩尾を殴打された際に起きる「息が吸えなくなり、立ち上がれなくなる」現象は、太陽神経叢(腹腔神経叢)の過剰興奮によるものです。網の目状に広がる自律神経ネットワークに強い圧力が加わることで、横隔膜が硬直・痙攣して呼吸停止を引き起こします。同時に内臓血管が一気に拡張し、脳へ送られる血液量が瞬間的に激減するため、強烈な吐き気と脳虚血性の失神が併発します。