神話の抽象的な記述を裏付ける決定的な歴史遺産が、京都府宮津市に鎮座する籠神社(このじんじゃ)に伝わる国宝『海部氏系図(あまべしけいず)』です。現存する日本最古の系図として1976年に国宝指定されたこの古文書の冒頭には、始祖として「天火明命」の名がはっきりと刻まれています。
この系譜において、天火明命から始まる血統は次のように広がっていきます。
天火明命の子である「天香山命(アメノカグヤマノミコト・別名高倉下命)」は越後国一宮である弥彦神社の祭神となり、新潟地方の開拓を進めました。また、その子孫は尾張国(現在の愛知県)を本拠地とする「尾張氏」として発展し、熱田神宮の創祀や草薙剣の奉斎に深く関わります。
一方、丹後地方に残った一統は「海部氏」として元伊勢の祭祀を代々司る社家となりました。つまり天火明命は、日本海側の丹後から越後、そして太平洋側の尾張へと広がる、古代の海上交通網と金属精錬技術を掌握していた巨大部族連合の共通祖神だったのです。