博多で明太子重がこれほどまでに愛される背景には、この地に根付いた辛子明太子の深い歴史が存在する。戦後、釜山から引き揚げてきた「株式会社ふくや」の創業者・川原俊夫氏が、韓国の「明太(ミョンテ)」のキムチ漬けをヒントに、日本人の口に合うよう試行錯誤を重ねて開発したのが博多辛子明太子の始まりだ。
川原俊夫氏は自身の商標権や製造特許を取得せず、製法を広く地元業者に伝授した。この無私無欲の精神があったからこそ、博多には数多くの明太子メーカーが生まれ、切磋琢磨する独特の食文化が育まれた。かつて日常の食卓を彩った名品が、いまや明太子重という芸術的な一杯へと昇華を遂げたのは、歴史の必然と言えるだろう。