メキシコ国旗の意匠において、長年学会やファンの間で熱い議論が交わされているテーマがあります。それは「国章に描かれた猛禽類は、生物学的に一体どの鳥なのか」という問題です。
メキシコ政府の公式見解および法律上の定義では、この鳥はイヌワシ(学名:Aquila chrysaetos、西語:Águila Real)と定められています。イヌワシは力強さと気品を兼ね備えた鳥であり、北半球の山岳地帯に広く生息し、国家の威厳を示すシンボルとして申し分ない存在です。
しかし、メキシコ国立人類学歴史研究所(INAH)の研究者や著名な鳥類学者グループは、生態学的見地から異なる指摘を行っています。
「イヌワシは主に山岳地帯に生息し、主な獲物はウサギや小型哺乳類。湿地帯のサボテンの上に止まり、ガラガラヘビを積極的に捕食する習性は極めて稀である。一方、ハヤブサ科のカンムリカラカラ(学名:Caracara plancus / cheriway)は、中央高原の乾燥地帯や湖沼周辺に生息し、地上を歩いてヘビやトカゲなどの爬虫類を日常的に捕食する習性を持つ」
古代アステカ人がテスココ湖畔で日常的に観察していたのは、神々しいイヌワシではなく、たくましくヘビを狩るカラカラであった可能性が極めて高いと結論づけられています。しかし、近代国家の紋章としてデザインを洗練させる過程で、ヨーロッパの紋章学(ヘラルドリー)において権威の象徴とされる「鷲(Eagle)」のイメージへと統合・昇華されていったというのが歴史の真実です。