庭の柑橘樹で幼虫を発見した際、愛好家が真っ先に注視すべきは「齢数(成長ステージ)」に応じた斑紋パターンと臭角の色彩です。幼虫は卵から孵化して蛹になるまでに4回の脱皮を行い、1齢から4齢までの「若齢幼虫」と、5齢である「終齢幼虫」で姿を劇的に変えます。
若齢幼虫期における最大の識別ポイントは、腹部背面に走る「白色のV字帯(鞍状斑)」の広がりとツヤ感です。ナミアゲハの若齢幼虫が茶褐色に境界のぼやけた白斑を持つのに対し、クロアゲハは全体的に黒味が一段と濃く、背面の白色紋が鮮明で、まるで濡れたような光沢を帯びています。野外観察の現場では「全体として黒光りし、鳥のフンとしてのリアリティが際立っている個体」ほどクロアゲハである確率が極めて高いと報告されています。
そして、最も疑う余地のない決定打となるのが、外敵を威嚇する際に前胸部から突出させる「臭角(しゅうかく)」の色彩です。ナミアゲハの臭角が鮮やかな黄色から濃いオレンジ色であるのに対し、クロアゲハの臭角は深みのある赤褐色から鮮烈なルビーレッドを放ちます。この臭角の色彩差は生化学的な含有成分の違いに起因しており、成虫の翅色を先取りするかのような鮮烈な深紅色は、両者を分かつ確たる鑑識眼となります。