名字由来の公的データベースおよび民俗学の調査によると、日本全国に存在する「逸見」姓はおよそ約2万1,000人と推計されています。その読み方の内訳を精査すると、長年抱かれてきた疑問に対する明快な答えが浮かび上がってきます。
結論から述べると、全国のシェアで圧倒的多数を占めているのは「へんみ」であり、全体の約7割から8割に達します。次いで多いのが古代からの発音を色濃く残す「へみ」で約1割強。そして、テレビ文化を通じて全国区の知名度を獲得した「いつみ」は、主に関西圏など局所的に見られる読みであり、全体比率としては少数派に属します。その他にも極めて稀な例として「はやみ」「いづみ」と名乗る家系も確認されています。
なぜ同じ漢字でありながら、これほど発音が分かれたのか。その鍵は古代日本語の地名発音にあります。「逸見」の原型は、古代の甲斐国巨麻郡に存在した「逸見郷(へみのさと)」です。古記録によると、かつては「偏(へ)」や「邊(へ)」に「見(み)」を当てて「辺境の地を望む」という意味合いを含んでいましたが、奈良・平安期の好字二字令などにより優雅な「逸見」の用字が定着しました。
本来の「へみ」という清音が、中世以降の東国方言における鼻濁音化や撥音(はつおん)の挿入によって「へんみ」へと変化しました。神奈川県横須賀市にある京急本線の「逸見駅(へみえき)」のように、地名としては古音の「へみ」がそのまま保存されたケースがある一方、人名としては発音のしやすさから「へんみ」が主流へと定着していった経緯があります。「いつみ」という読みは、近世以降に漢字の音読み「イツ」に引きずられて転訛したものと考えられています。