櫻井翔の俳優キャリアを振り返る際、多くのメディアは『木更津キャッツアイ』(2002年)のバンビ役や、後の『特上カバチ!!』(2010年)、『謎解きはディナーのあとで』(2011年)、『家族ゲーム』(2013年)を代表作として挙げがちです。そのためネットの一部では、「御村託也役は櫻井翔にとって単なるアイドル的な助演に過ぎなかった」という安易な評価が見受けられます。しかし、これは明確な誤認です。
演劇評論の視点から分析すると、御村託也こそが「キャスター・櫻井翔」の知的パブリックイメージと「俳優・櫻井翔」の芝居が初めて融合した極めて重要な転換点でした。慶應義塾大学を卒業し、2006年から『news zero』のキャスターを務めていた櫻井に対し、世間は知性や育ちの良さを認知し始めていました。そのリアルなパブリックイメージを逆手に取り、格式高い華道の名門跡取りというフィクションへ美しく着地させたのが本作です。
声を荒らげることなく、伏し目がちな視線やわずかな微笑みで感情を伝える御村の「引き算の演技」は、後に『家族ゲーム』で見せた不気味な家庭教師・吉本荒野の怪演や、『大病院占拠』シリーズでの重厚な主役像へと繋がる重要なステップでした。櫻井翔という表現者が、感情の爆発に頼らず画面を支配する術を獲得した作品こそが、『山田太郎ものがたり』だったのです。