『眠狂四郎』は、映画化第1号となった東宝の鶴田浩二(1956〜1958年)をはじめ、大映の松方弘樹、テレビ東京版の片岡孝夫(現・片岡仁左衛門)、舞台版のGACKTに至るまで、錚々たるスターが演じてきました。しかし、作品の評価を決定づけ、今なお二大巨頭として比較され続けるのが、市川雷蔵と田村正和の2人です。
市川雷蔵の狂四郎は、まさに「氷の刃」です。名門・歌舞伎の世界から銀幕へと転身した雷蔵は、完璧に計算された身体所作と無駄のない太刀筋で、観客を恐怖と陶酔に陥れました。彼が演じる狂四郎は、他者に甘えることを徹底して排し、自らの孤独を誇り高く掲げるストイシズムに満ちています。雷蔵が37歳の若さで早世したことも相まって、大映の12作品は神話的な完成度を誇っています。
対する田村正和の狂四郎は、「甘美な毒」と評されます。1972年の連続ドラマで若き日の狂四郎を演じた田村は、ささやくような独特の台詞回しと、憂いを帯びた伏し目がちな視線で、狂四郎の内面に眠る悲哀を前面に押し出しました。死を恐れぬニヒリストでありながら、どこか救いを求めているような儚さは、女性ファンをはじめとする幅広い視聴者の胸を締め付けました。2018年に放送された『眠狂四郎 The Final』が田村正和の俳優人生最後の出演作となった事実も、狂四郎という役柄がいかに彼にとって運命的であったかを物語っています。