歌詞の中に一度も登場しない単語が、なぜタイトルに据えられたのか。その裏には、当時のスピッツが直面していた劇的な環境変化と、バンドとしての確固たる矜持が隠されています。
1995年、シングル『ロビンソン』が160万枚を超えるミリオンセラーを記録し、続いてドラマ主題歌に起用された『空も飛べるはず』がリバイバルヒット。スピッツは一躍、日本中が注目するトップバンドの座へと押し上げられました。そうした熱狂の最中に制作されたのが本作です。スピッツ チェリー 制作秘話において象徴的なのは、草野が抱いた「売れたからといって器用な大人になりたくない」という強い危機感でした。
数々のスピッツ チェリー 公式エピソードによると、チェリー タイトル由来の理由は「初心を忘れない」「いつでも処女作を作るような気持ちで音楽に向き合う」という宣誓にあります。「チェリーボーイ(未熟者・初心者)」という言葉の響きや、春に実をつける桜桃のみずみずしい酸っぱさを重ね合わせ、自らをあえて「発展途上の未完成な存在」と位置づけたのです。商業的な大成功に甘んじることなく、泥臭く純真な表現へ立ち返ろうとしたバンドの決意が、この一見ポップなタイトルに込められています。