端正な佇まいと紳士的な物腰で知られるバロンですが、彼の本名はフンベルト・フォン・ジッキンゲン男爵(Baron Humbert von Gikkingen)です。ドイツ語の「フォン(von)」は貴族の家柄を示す称号であり、名実ともに男爵(バロン)の位を持つキャラクターとして描かれています。劇中でハルから「名前、長いのね」と微笑まれる場面がある通り、気品あるネーミングそのものが彼のアイデンティティを象徴しています。
バロンの人物像を語るうえで欠かせないのが、重厚な魅力を吹き込んだキャストの変遷です。2002年公開の『猫の恩返し』でバロンの声を演じたのは、俳優の袴田吉彦氏でした。青年らしい軽やかさと頼もしさ、そしてハルを優しく導く落ち着いたトーンが見事な調和を生み出し、当時の映画レビューや特番インタビューでも「スマートな英国紳士を想起させる好演」と高く評価されました。
しかし、バロンの映画初登場は1995年の『耳をすませば』に遡ります。同作の劇中劇(雫の妄想シーン)で声を担当したのは、昭和の名優として名高い露口茂氏でした。露口氏による低く深く響く威厳に満ちた声と、袴田氏による爽快で包容力あふれる演技の対比は、ジブリファンの間で長年語り継がれる聴きどころとなっています。