結論から明示すれば、「マグロ漁船に乗ると新人が日常的に掘られる(同性間の性的暴力・レイプに遭う)」という話は、客観的証拠が一切存在しない都市伝説です。海上保安庁の司法警察活動や日本海員組合の労働相談記録を精査しても、遠洋漁船内において組織的・慣習的な性的虐待が存在したという公式記録は見当たりません。
それにもかかわらず、なぜこれほど強烈なイメージが定着したのでしょうか。背景には複数の文化的・心理的要因が絡み合っています。
第一の発端は、昭和から平成にかけて大衆消費されたヤクザ漫画や金融劇画です。『ミナミの帝王』や『ナニワ金融道』といったヒット作において、「逃亡を図った債務者の行き着く果て」として遠洋漁船が記号化されました。そこに「男だけの閉鎖空間」「長期航海による極限の孤独」という過激な脚色が重なり、刑務所内の性暴力(いわゆるプリズンレイプ)のイメージが安易に結びつけられたと分析されています。
第二に、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)をはじめとするネット掲示板の存在です。「マグロ漁船に乗ってきたけど質問ある?」といった匿名スレッドにおいて、過激なネタや嘘松(創作実況)が面白半分に投稿され、真実味を帯びた怪談として拡散しました。ネット黎明期特有の「アングラな男社会への偏見」が、実態を知らない一般読者の恐怖心を煽り、都市伝説を固定化させる格好の温床となったのです。