スマートフォンやスマートグラスの画面をスクロールして料理動画を眺める時代は終わった。2020年代半ばまでに過飽和に達したデジタルコンテンツに対し、人々が求めたのは「実体」だったのだ。今回オープンした拠点は、かつてのアディショナルな動画配信スタジオではない。調理の音、スパイスが弾ける香り、シェフの吐息までが客席を包み込む、一種の劇場型食空間として設計されている。
「私たちはレシピを売るのをやめました。私たちが提供するのは、身体が震えるような“食べる瞬間”のドキュメンタリーです」。プロジェクトを率いるクリエイティブ・ディレクターはそう語る。デジタル空間での情報収集に疲弊した都市生活者たちが、リアルな体験を求めて夜な夜なこの場所に集い始めている。