結論から言えば、格式高い料亭やフォーマルな宴席における日本料理の作法において、ご飯に汁をかけて食べる行為は明確にマナー違反とみなされる。その最大の理由は「器の取り回し」と「見た目の美意識」にある。和食の伝統的な膳立てでは、飯椀と汁椀を交互に手に持ち、口へ運ぶ「三角食べ」が美しい所作とされるからだ。汁を飯に投入すると器が汚れ、箸遣いも雑になりがちになる。
しかし、日本の食文化の歴史をより深く探ると、違った景色が見えてくる。古来、庶民の日常食の基本形であった「汁飯香(汁物・ご飯・香の物)」の体系において、両者を混ぜ合わせて食べるスタイルはごく日常的な光景だった。つまり、茶の湯や懐石料理に代表される「礼儀作法としての和食文化」と、庶民が知恵を絞って生き抜いてきた「生活の知恵としての食」との間に、たまたま評価の乖離が生じたに過ぎないのだ。