白鸚の体調に関して世間の関心が急速に高まった背景には、2022年から2023年にかけて相次いだ歌舞伎座 休演と、半世紀以上続いたライフワーク『ラ・マンチャの男』の勇退劇がありました。歌舞伎座の本興行では、出演予定だった演目を急遽休演し、息子の十代目松本幸四郎らが代役を務める事態が複数回発生しました。
特に演劇界に衝撃を与えたのが、ラ・マンチャの男 降板理由を巡る一連のドラマです。白鸚が26歳だった1969年の日本初演以来、単独主演として挑み続けてきた同作ですが、2022年の東京・日生劇場公演では新型コロナウイルス感染症の影響に加え、白鸚自身の声帯炎や極度の疲労が重なり、複数公演の中止を余儀なくされました。
関係者の手記や当時のインタビューによると、白鸚の喉と肉体は限界を超えていました。ドン・キホーテ役は劇中で高音のミュージカルナンバーを熱唱し、激しい立ち回りをこなす過酷な役柄です。80歳という高齢でこれを務め上げることは、医学的にも驚異的な負担を強いるものでした。しかし白鸚は不屈の執念を見せ、2023年4月に神奈川・横須賀芸術劇場で上演されたファイナル公演で見事に有終の美を飾り、通算上演回数1,311回という不滅の金字塔を打ち立てたのです。