ネット上のQ&AコミュニティやSNSでは、「お腹に黒いシミがたくさん増えてきたが癌ではないか」という切実な相談が多く見られます。しかし、犬のほくろとお腹の色素沈着には明確な病理的差異が存在します。
皮膚が擦れやすい脇の下や内股、下腹部に広がる平坦な黒ずみは、多くの場合、慢性的な皮膚炎(マラセチア皮膚炎やアトピー性皮膚炎)の炎症後色素沈着です。また、シニア犬に見られる内分泌疾患(副腎皮質機能亢進症=クッシング症候群や甲状腺機能低下症)の症状として、腹部の皮膚が薄くなり左右対称の脱毛とともに黒色色素沈着が進行することもあります。これらは腫瘍性病変ではありませんが、背景にある根本的な疾患の治療が必要です。
もう一つの大きな誤解が、老犬の黒い老人性イボに対する自己処置です。加齢とともに皮脂腺の活動異常で生じる「脂漏性角化症」や「皮脂腺腫」は、表面が黒くゴツゴツとしたイボ状になり、触るとポロリと取れそうに見えることがあります。ネット上には「糸を縛って壊死させて取る」「人間用のイボ取り薬を塗る」といった危険な民間療法が散見されますが、これは絶対にやってはいけない行為です。細菌感染による蜂窩織炎(ほうかしきえん)を招くだけでなく、万が一起源が悪性腫瘍であった場合にがん細胞を周囲へ撒き散らす(播種)致命的なミスにつながります。